投資において「リターン」と「対数リターン」は、資産の成長を評価する際に重要な指標です。本記事では、それぞれの違いを具体例を交えて解説します。
リターンとは?
リターンは、投資した金額に対する利益や損失の割合を表します。一般的に、以下の式で計算されます。
\[リターン=\frac{終価 – 初期価格}{初期価格}\]
たとえば、10,000ドルを投資して12,000ドルになった場合のリターンを計算します。
\[\frac{(12,000\,-10,000)}{10,000}=0.2=20\%\]
つまりこの投資のリターンは20%です。
対数リターンとは?
対数リターン(ログリターン)は、リターンに自然対数\(\,ln\) を適用した値です。一般的には以下の式で計算されます。
\[対数リターン=ln\left(\frac{終価}{初期価格}\right)\]
対数リターンは、リターンの変動を対数スケールで表現するため、変動の大きさや相対的な比較が容易になります。
同じく、10,000ドルを投資して1年後に12,000ドルになった場合、対数リターンは次のように計算されます。
\[ln\frac{(12,000}{10,000}) ≈ 0.182=18.2\%\]
つまりこの投資の対数リターンは18.2%です。
リターンと対数リターンの比較
リターンと対数リターンを比較すると以下のような特徴とメリットがそれぞれにあります。
リターン | 対数リターン | |
特徴 | 単純な増減率を示す | 変動の比較や統計的解析に適している |
メリット | 直感的に理解しやすい | 期間をまたぐ計算や加法性に優れる |
対数リターンのメリット
① 異なる期間のリターンを比較しやすい
例えば、1年間でリターンが10%の投資と、3年間でリターンが30%の投資があった場合、通常のリターンでは期間が異なるため単純比較が難しいですが、対数リターンを使用すれば、異なる期間のリターンを統一的に比較できます。
Aさん が1年間で10%のリターンがある投資 ⇒ \(\ln(1.1)=9.5\%\)
Bさん が3年間で30%のリターンがある投資 ⇒ \(\ln(1.3)=26.2\%\)
さらに、Bさんの対数リターンを経過年数の3年で割ると、年率対数リターンを計算できます。
② 複数期間のリターンを単純に合算できる
通常のリターンでは、異なる期間のリターンをそのまま足すことができません。なぜなら、投資ではリターンが「掛け算」の関係になるため、単純に加算すると誤差が生じるからです。
しかし、対数リターンでは以下の性質を利用することで、計算をシンプルにできます。
\[ ln(A)+ln(B)=ln(A×B)\]
例えば、
- 1年目のリターンが10%(対数リターン約9.5%)
- 2年目のリターンが15%(対数リターン約13.98%)
通常リターン(累乗計算)
通常のリターンでは、資産増加率は以下のように計算します。
\[(1.1×1.15)−1=1.265−1=26.5\%\]
これは、単純に10% + 15% = 25%と足し算するのではなく、複利の考え方を反映した結果 です。
対数リターン(加算計算)
対数リターンを使うと、以下のように計算できます。
\[ln(1.1)+ln(1.15)=0.095+0.1398=0.2348=23.48\%\]
これは、対数リターンが「掛け算の関係を足し算で表現できる」性質を持つため、計算が簡単になる ことを示しています。
ただし、対数リターンの合算結果(23.48%)は、実際の資産増加率(26.5%)とは完全には一致しません。
対数リターンは 「小さなリターンの近似値として優れている」 という点がポイントです。
③ 統計解析に適している
対数リターンは、通常のリターンと比較して正規分布に近い形になる という特徴があります。
これにより、統計的な手法(リスク評価・リターン分析)を適用しやすくなる というメリットがあります。
例えば、以下のような統計分析に活用できます。
- リターンの平均値や標準偏差の計算(投資のリスク・リターン評価)
- ポートフォリオの最適化(現代ポートフォリオ理論などで利用)
- VaR(バリュー・アット・リスク)などのリスク管理指標の算出
このように、対数リターンは単なるリターン計算だけでなく、投資リスクの評価や戦略の立案にも重要なツール になります。
まとめ
さて、それではこの記事のまとめです。
- リターン は投資額に対する増減率を表し、直感的に理解しやすい
- 対数リターン はリターンを対数変換したもので、統計的解析や期間をまたぐ比較がしやすい
- 異なる期間のリターンの比較や、複数期間のリターンの加算に便利
- 統計的手法を適用しやすく、投資分析に役立つ
投資をより深く分析する際は、対数リターンの活用が重要になります。リターンの見方を理解し、適切に使い分けていきましょう。
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